PathAIとは?病理スライドの画像をAIで解析する米国の病理AI企業
遺伝子検査の前に腫瘍細胞の割合を目で見積もる作業には、時間とばらつきの課題があります。米国のPathAIは、スライドをスキャンした画像をAIで解析し、腫瘍細胞の割合の推定などで病理医の評価を支える製品を開発しています。
がんなどの病気は、病理医がスライド上の組織を顕微鏡で観察して診断するのが一般的だと、Quest Diagnosticsとの共同発表は説明しています。 遺伝子検査に回す検体について、病理医が腫瘍細胞の割合を見積もる作業は時間がかかり、正確さと再現性も低いと公式発表は指摘しています。 米国のPathAIは、スライドをスキャンした画像をAIで解析し、腫瘍細胞の割合の推定などで病理医の評価を支える製品を開発しています。
製薬企業の臨床試験に向けても、肝生検の評価を標準化し、1人の病理医によるスコア付けを支えるAIを提供しています。
国:米国。 情報確認日:2026年11月1日。 同社は公式発表で、マサチューセッツ州ボストンを本社所在地として案内しています。 会社概要によると、設立は2016年です。 2026年5月には、スイスのRocheがPathAIを買収する合併契約を発表しました。
PathAIの製品とAIが担う役割
同社は会社概要で、450人を超える病理医のネットワークから得た3,250万件超のアノテーション(画像への注釈)を、AIモデルの学習と検証に使っていると説明しています。 製品は、スライド画像を管理・閲覧する基盤と、画像を解析するAIに分けると整理しやすくなります。 主な解析AIの入力、出力、人の工程は次のとおりです。
| 製品 | 入力 | AIの出力・役割 | 人の工程 | 公式資料上の位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| AIM-TumorCellularity | 遺伝子検査前の検体のスライド画像 | 腫瘍細胞含有率の定量的な推定値 | 病理医による含有率の評価を支える | 診断目的ではないAISight Dxのワークフローツール |
| PathAssist Derm | 皮膚病変のスライド全体画像 | 症例評価と優先順位付けの支援 | 病理医の読影を支援する | 研究用。FDAのBreakthrough Device Designationを取得 |
| AIM-MASH AI Assist | MASH臨床試験の肝生検 | 組織所見のスコア評価 | 1人の病理医のスコア付けを支える | FDAとEMAが臨床試験用ツールとして認定。診断用ではない |
| PathExplore | H&E染色のスライド全体画像 | 細胞の検出・分類と600種超の特徴量 | 研究者が腫瘍の微小環境を分析する | 研究用 |
表の内容は、AIM-TumorCellularity、PathAssist Derm、AIM-MASH AI Assist、PathExploreの各公式資料に基づきます。 Breakthrough Device Designationは審査の迅速化に関わる指定で、販売の認可とは異なります。 PathAssist Dermの発表でも、研究用で診断には使えないと明記しています。
PathExploreは、14種類のがんを対象に、リンパ球の総数や間質のリンパ球密度などの特徴量を出力すると案内しています。
AISight Dx:FDAの認可は画像管理システムとして
公式発表によると、AISight Dxは2025年6月、病理画像の管理システムとして、米国の臨床での一次診断に使うためのFDAの510(k)認可を受けました。 2022年に最初の510(k)認可を受けた製品を発展させたものです。 今回の認可には、ディスプレイやスキャナーなど特定の変更を、追加の申請なしで検証して組み込める変更管理計画(PCCP)が含まれています。 製品ページでは、Leica Aperio GT 450 DX、Hamamatsu NanoZoomer S360MD、Roche VENTANA DP200とDP600の各スキャナーとの組み合わせでFDA認可を受けていると案内しています。 同じページでは、欧州経済領域、英国、スイスで一次診断用のCE-IVDマークを取得していることも示しています。 主な機能として、症例の割り当て、スライド画像の閲覧、注釈やコメントを使った共同作業を挙げています。
2026年7月の更新では、アルゴリズムの出力件数を棒グラフで示し、その結果で症例を絞り込んだり優先順位を付けたりできる表示が加わりました。 MedStar Healthとの提携発表では、AISight Dxを一次診断用にFDA認可済みとする一方、ArtifactDetectはAISight Dx上のワークフローツール、TumorDetectは研究用と区別しています。 gennaiの見方では、導入を検討する際は、画像管理システムとしての認可と、個々の解析AIの位置づけを分けて確認すると、使える範囲を誤解しにくくなります。
遺伝子検査の前に腫瘍細胞の割合を見積もる
公式発表によると、スイスのチューリッヒ大学病院は、次世代シーケンシング(NGS)の前に行う腫瘍細胞含有率の評価にAIM-TumorCellularityを使います。 同発表では、NGSで治療方針に関わるバイオマーカーを正しく検出するには、検体に一定量の腫瘍細胞が必要だと説明しています。 含有率の見積もりが不正確だと解析が失敗し、組織が失われるおそれがあるとしています。 AIM-TumorCellularityは安定した定量的な推定値を示し、分子診断に回す検体の品質に対する一貫性と信頼性を高めることを目指しています。
例えば、病理医の見積もりとAIの推定値が大きく食い違った検体をどう扱うかは、運用を始める前に決めておく必要があります。 gennaiの見方では、推定にかかる時間だけでなく、NGSの解析失敗や再検査の件数が変わるかを測ると、自施設で効果があるかを判断しやすくなります。
製薬企業の臨床試験で使うAIM-MASH AI Assist
PathAIは2025年12月、AIM-MASH AI AssistがFDAの医薬品開発ツール(DDT)の認定制度で、MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の臨床試験向けに認定されたと発表しました。 同発表によると、欧州医薬品庁(EMA)も同じ年にこのツールを認定しています。 同社は、試験への登録時と経過観察時に、1人の病理医が肝生検をスコア付けする作業を支えると説明しています。 臨床試験の生検1,400件超を使って、分析面と臨床面の検証を行ったとしています。 診断の目的には使えないことも明記しています。
治験を計画する製薬企業にとっては、認定された使用範囲(context of use)に自社の試験の評価項目が収まるかが最初の確認点になると、gennaiは考えます。
Rocheによる買収と、過去の事業売却
Rocheは2026年5月7日、PathAIを買収する合併契約を結んだと公式発表しました。 同発表では、PathAIを病理検査室と製薬業界向けにデジタル病理とAI技術を提供する米国企業と紹介しています。 両社の提携は2021年に始まり、2024年にはAIを使ったコンパニオン診断用アルゴリズムの開発へ広がっていました。 契約では、Rocheが前払いで7億5,000万米ドルの購入価格を支払い、さらに最大3億米ドルのマイルストーン支払いを行うとしています。 確認した発表では、この金額が株式取得対価か企業価値かの区別や、現金か株式かといった対価の種類は示されていません。 取引の完了は独占禁止法などの承認を条件とし、2026年後半を見込んでいます。 完了後、PathAIはRocheの診断薬部門に入る予定です。 情報確認日の時点で、確認した資料では買収完了の発表を確認できていません。 PathAIのニュース一覧では、2026年7月28日にAISight Dxの更新版v2.21を発表しています。 買収額は2026年5月の契約時点での評価を示すもので、現在の企業価値と同じではありません。
PathAIは2024年5月1日、病理検査サービス事業であるPathAI Diagnosticsの一部資産をQuest Diagnosticsが取得する正式契約を、Questと共同で発表しました。 同発表によると、テネシー州メンフィスの検査室はQuestのAIとデジタル病理の研究開発拠点となり、QuestはAISightのライセンスも受けます。 完了は2024年第2四半期を見込むとしていましたが、確認した資料では完了日と金額を確認できません。 PathAIの会社概要は、2024年のQuestとの提携にPathAI Diagnosticsの売却が含まれていたと記しています。 同じ会社概要によると、PathAIは2021年に独立系の病理検査会社Poplar Healthcareを買収して臨床診断に参入しましたが、確認した資料ではこの買収額を確認できません。
日本の医療機関から見る導入条件
確認した公式資料では、日本での承認や提供についての記載は見つかりませんでした。 米国のFDA認可や欧州のCE-IVDマークがあっても、日本で医療機器としてどう扱われるかは別に確認する必要があります。 自施設のスキャナーが対応機種に含まれるか、クラウド上の画像がどこに保存されるか、既存の病理検査システムとどう連携するかも確認点です。 Rocheによる買収が完了した場合の提供体制や契約窓口も、導入前に確認しておくと安心です。 同じ医療画像の分野では、gennaiはLunitも紹介しています。
PathAIを評価する出発点は、病理医の作業のどこに時間とばらつきが生じているかです。 腫瘍細胞の見積もり、症例の振り分け、臨床試験のスコア付けのうち、どの工程を支えたいのかを決めてから、AIの出力と病理医の確認にかかる時間を分けて測ると、自施設に合うかを判断しやすくなります。